渡渉技術についての見直し    はじめに

渡渉については先ず安全性を確保することが最 優先、万が一流されても致命的にならない状況で行うことが一番大切だ。技術は双刃の剣であり、より厳しい条件での行動を可能とするとともに、もし失敗した場合その結果は致命的なものに成りかねない。水量、水勢にもよるが増水時の本流渡渉、水が濁って下が見えないようなときは決して渡ってはならない。天候回復まで待機するか、食料、時間切れで脱出するならば、危険を覚悟して本流を渡るより藪をこぐか、枝沢を遡上して山越えの道を先ず考えるべきである。

1.スクラム,肩組渡渉

(1) 肩組スクラム  2〜3人で肩などをくんでスクラムのような形で渡る方法がある。これはちょっとしたところでもよく使う技だ。肩か脇かはては異説もあるが私の経験からはザックの肩ベルトやザック上のの引き紐をつかんで肩を組むような形で相手を押しつけ合うように渡渉する方が良いと思う。その理由としては◆背負いひもをつかんだ場合、2人の間の間隔が離れ、水中の段差や岩等の障害物に対応しにくくなる。◆間隔を近づけようとすると腕を強く畳んで引きつけねば成らず、余計なと ころに力が入ってしまう。(手の位置がちょっと微妙なので相手が女性の時はセクハラ状態に成らないよう余計な気を使わなければならない、ん?・・・邪念に身を染めていると流されてしまうぞ!※※君) 相方と身長差がある場合は背が低い人は相手のベルトあたりをつかんだ方が安定する。肩組は段差のあるような所では確かに柔軟性に欠けるとの指摘もあるが、むしろ段差のあるような所をルートとしないよう心がけるべきである。実際の渡渉では段差を避けながらすり足で渡る事になるはずである。川底の岩などを注意して避けながらすり足で横断する。自分の足場だけでなく相手の足場にも気を使うことが必要だ。 身長の低いものは浮きやすく不利になるので川下側に組ませ 、高い人は上か押さえつけるように組んで安定させる。ザックは浮き袋同然なのでウエストベルトは外しておく。   渡る方向は斜め上を目指し体は斜め上30〜45度の半身で進む。水勢が強いとこれでようやく真横にわたれる程度になってしまう。 3人の場合は2人組の後ろからザックを前に押さえつけるように組んでついていく。(逆3角形:騎馬戦の反対の形)引っ張ったり下に押さえつけたりすると前二人の重心が後ろにかかり不安定になるので、あくまで軽く前へ押さえ気味に力を掛ける。3人横並びの形は障害物を避けにくいので止めるべきだと思う。

(2) リングスクラム

 二人の場合は正面に正対して肩に両手を掛け合い渡る。3人以上の場合は輪になって渡るとのこと。力学的には2〜3人の場合は強固であり,かつ弱い人を守りやすい利点がある。二人の場合はかなり有効かもしれない。欠点としては流れに背を向けたり,進行方法への後ろ向きになる人がどうしても出てくる。実際に厳しい渡渉ではどうしても躊躇してしまい、進行が遅くなる。私の個人的意見としては、この方法より肩組腰組の方が動きやすくて良いと思う。また更に人数を増やした場合は力学的にも安定しなくなり、デメリットが多くなるはずだ。

ここでの私としての結論は肩 組スクラムがダメならザイルを使うべきであると言ったところだ。

2.ザイルを使用した渡渉法

 ザイルを使う渡渉はそんな使う機会があるものではないので,シーズンが終わると忘れがちである。夏の前にはこの文を読んで各自思い出してもらいたい。また使用にあたってリーダーは,これからやろうとする渡渉の手順をメンバーに対し徹底してから渡渉を行ってもらいたい。

(1) 結び目交換三角法による渡渉

 ザイルの使い方には従来からの振り子法、新しい三角法、そして3人以上の時中間を渡す固定法がある。従来から用いられてきた固定ザイルの末端で渡る振り子法は川の中で宙づりに成りや すいので使用せず、三角法、それもラストも三角形になって渡る結び目交換三角法(向井氏考案)を使用すべきである。

 中間を渡すときにはザイルをダブルにして固定し、これも水流中で宙吊りにならないよう川下側に向かって30度程斜めにザイルをのばす。

 渡渉者はザイルをハーネスに付けたビナに直接かける。確保者は道具は使わず,たるませず引っ張らず出していく。

 たるませるとザイルが岩に引っかかる危険が生じ,張ると渡渉者の妨げになる。万一 渡渉者が流されたときは全力で引き,場合によってはザイルをつかんで下流へ走る。

 固定支点に人間アンカーを使う場合には肩がらみしたザイルの末端側をボディにとったカラビナにかける猫の肩がらみが良い。座り込むなり岩を土俵俵にして,引き吊り込まれる力に対抗する。自信がなければハーケンで確保する。

 どのような場合も万一流されたときに,水流の中で宙づりにならないことを常に考えて行動することが肝要。またザイルを不用意に扱うとたるんだ部分が水勢に流されてで石に絡まったり、流されてしまってザイルを失うことに成りかねない。固定を外して結び直すような場合、たるんで流されぬよう必ず体等に仮固定してから作業する。

 ラ ストも中間と同じ固定法で渡ってザイルを引き抜いて回収する方が楽との説もあった。確かに渡るのは容易かも知れないが

  1.立木を支点にする以外は残置を要する

  2.最後にザイルを引き抜くときにザイルがフリーになって川を渡るため岩に引っかかる危険がある 1.はともかく2.はかなり致命的なので止めるべきだろう

(2) ザイルの連結

川幅が大きいときはザイルを結んで長くせざるおえない。ここ でもしも渡渉者が流されたことを考えると2本の結び目が引っかかり、ここに渡渉者がぶら下がってしまうことがあり得る。これを防ぐためには渡渉完了時に結び目が渡渉者 より出来るだけ下にあればよい。また固定支点から結び目までのザイル一本分下流の長さの地点で確保者が引くことが出来れば先ず問題が無かろう。確保者側の充分なスペースが望ましい。 下図参照

(3) その他の注意点

 何れにしろザイルで出来る三角形は浅いものであればあるほど安定する。渡り終わった頂点の角度で最低90度の二等辺三角形より浅いものであることが望ましい。

 また,支点を高い位置でとると渡りよいがと言うが,反面上方に張力が生じ体が水に浮きやすくなるのでどうか?。 たとえば5kgの上への張力(15度上向きロープに20kgで引っ張ると生じる)でも深い渡渉で浮力と体重の差が僅少になっている場合は影響は無視できない数字だ。

★ 何故振り子方が良くないか

 ◆振り子法では万一流されたときに川の屈曲や岩などによって流れが変化しているなどで、川の中でザイルの方向と水流の向きが一致してしまうと,渡渉者はザイルの末端で宙づりになってしまいます。

 ◆3人以上の場合は先行者が渡り終えた際,ザイルを元来た方に返す必要がありますが,この際ザイルが水中でフリーになりやすく,引っかかって回収不能になる危険性がやや高い。 3 .泳ぎによる渡渉水流が弱く瀞上になっていて流されてしまう危険がないと判断できる場合は泳ぎによる渡渉も考えられる。この場合、楽なところ以外ではトップがザイルを引っ張って泳ぐことになる。ただしこれは欠点がある ◆ザイルの抵抗、重さによってかなりブレーキがかかる ◆特に平泳ぎの場合ザイルが足に絡まりやすい  ゴルジュ突破の場合も同じであるが、ザイルを引く場合水に浮く軽い荷物ひもを引っ張っていき、泳ぎ終わったらこれにザイルを結んで引っ張る方法が非常に有効である。またシュリンゲなどをぶら下げていると足に絡まったり水中で抵抗を受けやすいので必要最小限のものを身につけるようにする。ヘルメットは流されるおそれのあるとき使用、以外は不使用だろう。 この他チロリアンブリッジによる渡渉があり得るが、一般的な渡渉で使うことは先ず無い。トップと中間者がよほど実力に差がある場合以外はこの方法は考えられない。従って通常の沢登りではけが人が出たときぐらいしかこれを使うことはあり得ない。ただ固定ロープとして張っておくことは考えられないわけではない。例えば安全なサイト場はこちら側で帰り道は川向こう、今夜から大雨が降るといった場合、固定ロープとしてチロリアンブリッジを張るといった選択もできよう。   さて,向井式渡渉法乗っ取って、私の経験と独断と偏見をもってこの文を作らせていただいたが,ここに書いたことも必ずしも当を得ているとは断言できない。過去からの経緯も考えると技術の標準も時々によって結構変化している。この文をもって皆様の渡渉法を見直すたたき台としていただければ幸いである。

                      1996年6月 古元 一弘 / 鈴蘭山の会