雪崩対策方法論:仮想雪崩マップの作成 96年3月
- 鈴蘭山の会の雪崩講習会を通じて、強く感じたことはやはり雪崩に対する意識 の不足です。これをどうすればいいかを考えこのテキストを作成しました。なに ぶん自己流ですが皆さんの参考になれば幸いです。ご意見ご批判遠慮なくお願い します。
. そこで、これまで雪崩の可能性のある斜面、沢筋の滑降の計画を考えると き私がとってきた手法を「仮想雪崩マップの作成」と称する方法論としてまとめ てみました。各自が山行前にこれを作成することを試みれば、疑いなく雪崩に対 する意識を高められ、かつ現実に事故を抑制する効果が高いと思います。
. さらに気象について、及び従来から言われている弱層テストやビーコンに ついても触れました。
- 1.計画段階:仮想雪崩マップの作成 サンプルマップ(笠ヶ岳)→ サンプルマップ(上州武尊)→
雪崩の危険の強い沢筋や斜面を通るコースを考えるとき、1/2.5万図にあらか じめ発生しうる雪崩のコースを想像し矢印で書き込み、仮想雪崩マップを作ってみる。この際雪庇なども予想して記入するとルートを考察する上でも良い結果を生む。
仮想雪崩マップを作るときの知識は必ずしも特別のものでない。例えば
◆急斜面(30度〜50度)で、吹き溜まりになりそうな斜面(例えば東面や 西側を尾根で遮られている谷間、雪庇の下など)では特に雪崩が発生し易い
◆雪崩の起点から最終到達点までの平均斜度が25度前後である
. (→地図上の長さと傾斜についての相関表 )
この程度で、特別の知識経験が必須な訳ではない(つまりある程度は誰でも出 来るはずだ※1)。
ここで最も重要なのは一人一人が地図を見ながらどこで雪崩が起こり得るか考えてみること、イマジネーションを働かせることにあり、これによる心理的効果は実際的効用よりも大かもしれない。
線は雪崩の危険度に応じて強弱、波線など使い分ける。また同様に雪庇の予想 も書き込んで置くことが望ましい。
特に沢筋でサイト地を考えるときは特に最終到達点を最大限に想定する。
この場合過去の例では平均20度以下のものもあった。
狭い沢筋の雪崩で規模が大きいとき、上からどんどん詰めてこられるため、なかなか止まらない。樹林帯でも決して安心はできない。大規模な雪崩は木々をすり抜け或は押倒してやってくる。また雪庇を雪洞として使うことはかなりの危険を伴うらしい。
※1:誰でもできるといっても、やはり経験知識の差は大きい、できる限り過去の雪崩情報を収集して自分の経験とすべきである。また、計画段階で机上で出来るのがこの手法に強みで、技術や経験の伝達や討論が可 能になる。その意味でも山行前に各自が地図に向かって作成し、ベテランに質問したり、 パーティで討論してもらいたいと思う。
★仮想雪崩マップを作る上ではどのような場所が危ないか,あるいはどのような気象条件が危ないかを知る必要がある。これらは実際の雪崩事故の事例を数多く読むことによって学習することが可能である。
. しかし実際には1/2.5万図かそれより小さな縮尺で雪崩図が発表されたケースは少ない。それどころか報道機関等に発表された雪崩の長さ等は矛盾していたり疑問が多いものが多い。
. 数少ない正確な情報をもつ雪崩事例を【実践的雪崩事例集】に蓄積していく予定である。情報をお持ちの方でこの趣旨に賛同していただける方は是非ご協力をお願いしたい。
- 2.実行段階
- (1) 気象について
- 気象の条件を考え、まず計画が実現可能なのか考慮する。
視界不良、降雪降雨時、大量の降雪中とその直後は当然危険度は増える。条件 に応じ想定すべき雪崩の増加、雪崩の長さが大きくなることを考えてコース変更 するなり、中止停滞するなり考える。
気象について私が知る範囲で注意すべき点は
A.当然のことであるが降雪降雨中とその直後に雪崩の事故事例は多い
B.また逆に天気がよいときは注意力散漫になって、危険地帯に平気で入ってし まうこともあるから、気を抜かないように注意すべきである。(それは私です)天候が良いときでも意外に雪崩遭難の事例は少なくない。
C.特に冬季においては雪崩は必ずし暖かいときに多く発生するものではない。 特に日本海側や北海道では冬型の条件での雪崩が多く発生している。中央アルプスなどでも冬型が強いと大量の降雪→雪崩のケースがあ る。
D.上と相反するが南岸低気圧等での降雪時も多くの雪崩事故が発生している。特に日本海側でない山に多い。
E.3〜4月以降暖かくなってくると日光による雪のゆるみや降雨によるそれで の雪崩が多発するようになる。
・特に直前の降雪があり、かつ高気圧中心が東海上に抜け、南風が吹き込む午 後は危険度が高い。
・また急斜面ではザラメの斜面がそのまま流れることもある。
・また春の大量の降雪の何日か後、強い雨が降った場合、大規模な面発生表層 雪崩が発生した例があるので注意を要する。
- (2) 危険地帯を通過せざるおえないときには
- 危険な場所で危険な天候に遭遇しそうな場合は、状況によっては夜間行動をしてでもそれを避ける努力をする。とは言っても場合によってはどうしても危険なところを通過せざるおえないときがあろう。
このようなときこそは弱層テストを実施して行動を決すべきであろう。ハイマ ツなど確保支点を掘り出してから確保して行動や人工雪崩を起こしながら下降な んてことも必要な場合があるかもしれない。
危険個所は一人毎で迅速に行動し、スキーの場合はなるべくなら滑降可能な状 態で出来る限り短い時間で通過する。(といっても転倒すると雪面に刺激を与え るので程々に)
このような場合はもちろんビーコンや雪崩紐を使用することになる。但しこれ らは安全へ切符では無い。
特に本州の山は気温が比較的高く雪が締まりやすいため即死率が高いようだ。 このため,ビーコンが役に立つような場合の多くは死体探しになってしまうこと を自覚して行動すべきである。
また雪崩に埋まって生存している場合、怖いのは窒息と凍死であろう。窒息はともかく凍死の方は衣類を行動用の薄いものから少しでも上に重ね着しておくべきである。
注意点としては表面がクラストしていたり締まっているときは、つい安心しがちなものだが、下に顕著な弱層を有するときは逆に大規模な面発生雪崩を起こしやすい点が挙げられる。このケースでは、天候が良くても雪崩の危険は減らないものと想 像される。
- (3) 装備
- スコップ、ビーコン、ゾンデを雪崩対策の三種の神器と言うそうである。
ゾンデはストックのリングを外すと1m位までは代用できる。(プライヤでカ シメをゆるめると外れる)
ビーコンは機械に依存し、危険さを考えなくなるのでは?との声もあり、また、本州の重い雪では即死率が高いこともあり有効性を疑問視する声もある。しかし決定的なときに無ければ後悔する事もあろうし、どちらかと言うと今後携帯の方向で考えていきたい。それまでは雪崩紐(着色した 軽くてある程度丈夫な紐、15m以上)を必携としたい。
スコップは雪洞作りに使えるししっかりしたものを持つ。当然上記装備は各自 が持つのが原則である。
- ●1/2.5万図上の傾斜(度)と標高差50m当たりの水平距離の相 関表 【戻る↑】
斜度 |
長さ(水平距離)mm |
|
斜度 |
長さ(水平距離)mm |
50゜ |
1.7mm |
|
34゜ |
3.0mm |
45゜ |
2.0mm |
|
32゜ |
3.2mm |
42゜ |
2.2mm |
|
30゜ |
3.5mm |
40゜ |
2.4mm |
|
28゜ |
3.8mm |
38゜ |
2.6mm |
|
25゜ |
4.3mm |
36゜ |
2.8mm |
|
20゜ |
5.5mm |
以上. 文責 古元一弘