★☆★ 実践的雪崩事例の研究 ★☆★ 暫定板 95年3月

今回最初に事例研究として私が今まで経験した雪崩経験(幸い自 分でリアルタイムに経験した物はまだないので、伝聞、目撃、跡・デブリからの 想像等)、今年の千畳敷・前武尊の雪崩、を分析し、その状況を再現することを 試みます。そのあと、雪崩遭難を避けるための一般論を述べていきたいと思いま す。ここからくみ取ることのできる一般的な問題点=危険な状況(地形・天候) を教訓として、頭のしわに刻みつけることができたらな、と思います。ものの本 や雑誌等でいわゆる識者が述べていることと結論が違う点もあるかと思います。 絶対こちらが正しいとは限りませんので、ご自身でよく考えてみて下さい。 ここからくみ取ることのできる一般的な問題点=危険な状況(地形・天候)を教 訓とすることができたら幸いです。

1.千畳敷の雪崩
★概況:1995年1月4日、AM11時頃、前夜半から南岸低気圧の接近によ って降った暖かい雪60から70cmが40度弱の急斜面から10度程度のカール 底まで雪崩れ、カール横断中の登山者が飲み込まれた。

★問題点
(1) 「一般的なルート?」は必ずしも信用できない
(2) 近い易しい簡単なコースの落とし穴。危険性など想像もできなくなる。
(3) 基本的に沢筋、カールは雪崩の巣

(4) 特に崖、急斜面(40度以上)の下はかなり遠くまで危ない(今回は最終到 達25度=平均雪崩角度)。デブリの先端はカール底の殆ど平らなところまで達 している。 大規模な雪崩になるほど長距離を走り開始終了までの最終斜度20 度以下も有り得る。
(5) 特に東側の斜面は吹き溜まりになるので危険度が高い(地形場所にもよるが 一般に東〜南側の危険は最も高い
(6) 南岸低気圧による暖かい(霙や雨が降ったわけではない、気温は−5度前後 )ふんわり風が弱く積もった状態→雪崩遭難のかなりの部分を占めるケース、

但しその後の調査で千畳敷では冬型による降雪での新雪雪崩も発生しているよ うである。南岸低気圧のような暖気を伴った低気圧だけ注意すればいいと言う訳 にはいかないようだ。(冬型では気象条件が厳しく出歩く登山者が少ないため比 較的事故が少ないのでは?)
2.上州武尊、前武尊剣が峰の雪崩
★概況:
1995年2月19日 10時頃、前武尊から沖武尊へ縦走中の登山者 が剣が峰直下東側をトラバース中、こたりから発生した雪崩に巻き込まれ(誘発かは神のみぞ知る……)3名中1名が死亡。天候は弱い冬型であるが、前日からかなりの降雪 があった。

★問題点

(1) 原因?自然発生かスキー急斜面トラバースによるか。?、いずれ発生したであろう雪崩が登山者の通過によって発生が早められたかも知れないが。発生地点の斜度はやはり40度以上。
(2) 東側の急斜面から沢型まで長距離を雪崩る(25度ぐらいの中斜面では雪崩 は止まらない)実際沢型がはっきりして20度を割るようになりやっと雪崩が減 速、それでも更に200m程雪崩れている。 また、地図上がスムーズな曲線で構成 されていると実際より斜度を緩く見間違え安い
(3) 弱い冬型の天気で風は弱く新雪はかなり深い(南岸低気圧でなくても雪がふんわりまたは大量に積もれば危ない)
(4) 予兆現象は無く雪はクラストしていて危険は感じられにくかった。
(5)トラバースコースであろうと沢コースであろうとこのコースは降雪直後は止めた方が良いだろう。天候が安定しているとき上部を警戒しつつ荒砥沢の右岸を滑るなら安全性はかなり高まると思うが。
3.黒部五郎北斜面、雪落沢の大雪崩、同様のケースとして出水平への雪崩
★概況:発生日90年5月5日深夜〜早朝、5日ほど前に1m以上の降雪があ り、一旦これが締まりかかったところで当日強い降雨があった。おそらく旧雪面 との境界で雪崩れたものと推測される。  雪崩は40度弱の急斜面で、面で発 生、発生面は幅400mに及ぶ、斜面は1旦15度程度まで落ち、かなりの長さの中緩 斜面になるが、やや両側から集中する地形のためかここで止まらず、漏斗の口の ような沢筋へその力を集中し、一気に黒部川出合まで走っている。黒部川河岸の 穏やかな樹林帯の段丘はこの雪崩のデブリで幅200m程覆われいた。まずここが 雪崩にやられると想像出来る人はいないのではないだろうか。(良いと考えて もおかしくない)


★問題点
(1) サイト地選択では上部の地形をよく見て、急斜面からの雪崩の力の伝導路と なる沢の近辺には泊まらない。
(2) 樹林帯であっても決して安心できない。雪崩は木のあいだを抜けておそって くる。特に大木ばかりの森は雪崩に抵抗力が無い。
(3) 残雪期の大雨には注意、特に直前に寒気が入り、大量の降雪があったときが 危ない。
*厳冬期も併せて、この沢と出水平は上部急斜面からの雪崩常襲地点で有るよ うだ。

4.初雪山でMさんがのまれそうになった小雪崩
★概況 92年3月21日、初雪山北尾根1150m付近で新雪滑降中に足下から 小さな雪崩が発生、斜面が直ぐ緩やかになるため、50m程流されただけで事なき を得る。天候は南岸低気圧による降雪中で風が弱く、50CMほど新雪が積もってい た。
★問題点 
(1) 斜度30度未満でもふんわりと積もった雪は雪崩れる可能性がある。
(2) 実際の斜度はそこだけ瞬間的には30度を超えていたようだ。地形の変化を 読んでこうゆう落ち込みを避ける。新雪滑降は気持ちいいのでリーダーが制止し ないとつい行ってしまいがちになる。降雪直後はメンバーに雪崩に対するテンシ ョンをあげるよう指示しおくべきである。

(3) また滑降だけでなく登りでも急斜面は出来るだけ避ける。上州武尊の地図の 十二沢上部で雪崩に巻き込まれたケース(図2☆→)も、地図上ではほんの僅か な急斜面で、危険を予測していれば避けることは可能だったと思われる。 同様な緩斜面の雪崩の例として、RSSAのベルクシーロイファに載っていた 例を地形図だけ紹介しておく。蓮華温泉への振り子沢の下り口で発生した。

         
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