95年8月12〜15日   < 飯 豊 連 峰>  ◆日程 :前夜発3泊4日+予備1日(車)

飯豊川都沢〜長走川杉ノ沢下降

古元 一弘       

◆コース:
湯の平温泉→飯豊川渡渉→白い廊下→下部廊下(泊)→中ノ沢出合→中の廊下→ 蓬ノ木沢上部廊下→広河原(泊)→高立山200m東稜線→杉ノ沢→長走川出合上(泊) →長走川→林道→日出谷駅
◆メンバー:鈴木・古元・村木
◆地図 :蒜場山、日出谷 ◆8月12日 晴たり曇たり
林道7:30〜都沢出合8:00〜大高巻き開始9:00〜高巻き終了14:20〜変形二条の 滝16:00〜小さな河原17:00
<白い廊下から地獄の大高巻き>
 訓練以外で久々にザイルを使って飯豊川を渡渉する。出合からいきなり幅3m 程の白い廊下200mが現れる。水流に逆らい何とか進むが水量が多く厳しい。流されれば振り出しに戻ってしまう。必至で登り,これを抜けるとしばらく比較的穏やかな半廊下状となる。予定ではつめまでこんな感じで行くはずであったが・・・。右から枝沢を入れると小滝、釜が3つ連続し右から小さく高巻く。両岸は 次第に草付になり花崗岩の白さがまぶしい。 
. 当てにならない地形図の350m地点あたりに25m大滝があり側壁は40mはあろうか。この滝の瀑音は何故かジェットエンジンのようなキーンとした音。今もし っかり記憶の底に焼き付いている。
さてとても手が出ないので。右側草付を高巻 き始める。これがその後5時間近い高巻きの開始なる。谷の側面の傾斜は灌木帯 だがきわめて急で、ほとんど足で立てない。手元が狂えば即最後である。
こんな事を500mも続けて下りてみるが悪そうなので更に高巻く。途中から谷を見渡すと 左側からの花崗岩がルーフ状になった廊下の中に瀑水が砕け散るすさまじいゴル ジュだ。目が点になる。花崗岩でこんな地形が出来るとは想像を絶する。

. 更に高度150mも高巻いてやっと尾根上一息入れお昼にする。もう1時を廻 っている。4時間もこんな事をやっていたのが信じられない。時の流れを感じる ゆとりさえないのだ。生と死,谷に必至で向かい合っている時は流れを止め息を 潜めているかのようだ。

. この尾根から斜め下に向かって、5時間ぶりに谷に下りる。この沢につい ては地形図の川底の地形は全く信用できない。
<ゴルジュ,瀑流帯続く>
. ここからも通過困難な小滝、釜が次々と現れ、水量も多く、厭戦気分の我らは、主に左右に巻きながら進むが、側壁も低く少しは楽になる。
しかし何と言う谷であろうか。まるで河原が無く、休む間もなくゴルジュの連続。小滝でも満々と青い釜を持ち、瀑水は白く磨かれた花崗岩の岩肌を沸き立つように流れ下る ・・・。数十歩も歩くと直ぐ次の悪場が現れ、息付く暇もない。一つ一つの悪場 に記述を加えたらこの報告はどこまで行っても終わらない。これを越えさえすれば楽になるといった楽観的希望的観測はこの後2日に渡ってかなえられることはなかった。
. 白い花崗岩の瀑流帯上部に右側からヒョングリの滝で出会う枝沢の二股で本流 は変則的な二条10m滝となり右から高巻く。樋状の淵を越えたところで5時、前 方にはまたスラブで守られたゴルジュで前進をあきらめ、右岸の藪に寝場所を求 める(地図上460m 地点)。小さな河原があるが水の流れは速く何か流すと追いつ くことさえ出来ない。テントを張るスペースもなく、各自立木にビレイをとって ごろ寝。蛭がいないことと天候がよいことだけが救いであ る。それでも猫の額ほ どの河原での焚き火は楽しい。
◆8月13日 晴時々くもり
<中の廊下,上の廊下を越える>
. 強烈に寝にくい一夜を開かし、出発すると直ぐまた瀑水沸き立つゴルジュ 、水量が多すぎこれも右側から高巻く。高巻き自体は昨日ほど傾斜も強くなく、 かなり楽になる。このゴルジュは200m程で終わり、右から中ノ沢を迎える出合手 前から素晴らしく美しい河原(475m) になる。知ってさえいれば残業をしてでも ここまで来たのだがこればかりは仕方ない。しかしこの楽園も一瞬のうちに終わ って谷は暗く深くな り、またまた両岸高くそびえる廊下(中の廊下)になる。こ の廊下は上下2カ所に分かれ側壁は20m程、途中3カ所ほどザイルを出し、きわ どいへつりや荷揚げでなんとか通過出来た。昨日より水勢が穏やかでそのつもり なら楽しんでいける程度なのだろう。
. この後谷はやや広くなるが、両岸は切れ目無く壁が続く。そして右岸を大 スラブで守られた20m2段の滝で始まるまたゴルジュが出現。右から高巻いて見 るとまだ滝が続いている。下りると間もなく二股(575m)で左の権七の沢がやや水 量が多く本流であろう。(13:30)  我々は右から入る朴ノ木沢に入ると直ぐ、小 滝、滑、釜の連続する廊下となる。水量も少なくなり丹沢の小川谷を大きくした ような感じの廊下を楽しく登っていくと、やはり手に負えなくなってまた左を高 巻くことになる。この高巻きを短く切り上げ、滝を一つ越えると流木豊富な夢の よ うな河原(650m)が現れ、当然本日の行動は終了となる。今日は焚き火の横でご ろ寝と決め込む。
◆8月14日 晴
◆8月15日 晴時々曇り
. 朝キジをうとうと出かけた私は藪をつついてアブを起こし朝からこれらを 全部やつけないと大事なところをぼこぼこにされる羽目になった。おかげで準備 が遅れリーダーに怒られる。しかしそんなのは今日のアブ物語のほんのプロロー グに過ぎなかった。
. 出発してすぐ本流に出会って長走川本流を下るが,先頭の鈴木リーダー、 青くなって逃げてくる。見ると頭上に黒雲のようなアブ雲を引き連れている。し かし下りないと帰れない。意を決して下る。一人当たりのアブの数は500もいよ うか。手をぱんぱん叩きながら下ると1〜2分に一匹ぐらいたたき堕ちる。なん てやっても大勢には全く影響無い。村木君の脇の当たりなどハチの巣状態。パン とたたくとバラバラ三〇匹ぐらいが落ちる。少しでも水につかれるところは水遁 の術を使いしぶきで撃墜しようと計るがこれも影響は見えない。こんな所で滝場 があってアブ柱の中をザイルをかけて懸垂下降なんて考えられないようなことも 強いられた。渓はなかなかの美渓なのだが楽しむ余裕もない。半狂乱の下降が続 く。止まることも休むことも許されず、いったいどこまで続いていくのか。林道 へ入るとさすがに少しはましになり時には休めるほどになったが、人里が迫る頃 またひどくなり、集落へ入る前、全てのアブをたたき落とすとまだ一人当たり50 はたかっていた。

(このアブ柱を引き連れて銀座や国会議事堂を訪れたら面白いだろうななんて 最近考える筆者である。ウヒヒヒ)
下山後わらじの大津さん達が長走りの帰りにこの沢を降した記録があること を知った。やはり大変で死ぬ死ぬと言いながら必至で下降したそうな。彼らでな ければ本当に死んでもおかしくはない。くれぐれも皆さん安易にこの沢を下降路 なんかにしないで下さいね。



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