92年5月1日 〜 5月4日 【北アルプス】

立山〜北ノ俣岳(谷渡りルート)

文、写真、図:古元一弘    

◆メンバー:古元・他1(俵)

◆コース : 5/1 室堂〜一の越〜御山谷〜1850の枝沢〜中御峠(仮称)〜中 の谷〜狩安峠5/2 狩安峠〜五色が原(2370)〜ヌクイ谷〜廊下沢乗越〜廊下沢〜スゴ乗越5/3 スゴ乗越〜間山〜薬師岳〜太郎小屋5/4 太郎小屋〜北の股岳〜寺地山〜水の平〜打保〜山の村(神岡新道)

◆地図  :1/2.5万図 立山・薬師岳・黒部湖・有峰湖・打保

 立山から槍・上高地,または双六・新穂高温泉までは一部の人々に日本のオートルートとして賞賛される,おそらく日本最長のスキー縦走ルートだろう。しかし残念なことにその薬師岳以北は痩せた稜線歩きが多く、スキーが楽しめない。特に立山側の標高2300メートルの室道堂を起点とする南行ルートはそうだった。

 そんなわけで、山の素晴らしさにもかかわらずもうひとつの評判で、我が会でも今だに足を踏み入た人はていないようだ。 今回の目的はこのルートのつまらない部分を大幅に変えて滑りを楽しみつつ雄大な縦走を試みることにある。

 今回のパートナーの俵氏は八木さんの大学時代の仲間で、鈴蘭の山行にも何回か参加しているのでご存知の人が多いと思う。今回はたまたま八木さんがけがでリタイヤしているのでぜひと請うて参加していただいた。

◇5月1日(雪のち晴)

 <室堂から御山谷へ>  今年こそと勇んで来たものの昨年に続き、またまた時ならぬ寒波に襲われ、アルペンルートは大雪となり、室堂に到着したのは11時過ぎ。足ごしらえ、腹ごしらえを終え、一の越へと出発したのは予定を2時間以上過ぎて12時を少しまわったころとなった。幸い天候は好転し青空さえ見えている。さすがに連休の立山。 一の越へ登る人たちが点々と列をなしている。俵氏は絶好調で、写真を撮りつつも私よりかなり早く一の越へたどりつく。 昨年とは違い、御山沢の視界は良好。晴れてはいないもの後立山の山並もときどき見える。 既に斜面は黒部湖へ降りるシュプールでおおい尽くされていてかなり滑りにくい。なるべくカールの両側の、綺麗な斜面を選んで降りる。 雪は次第に重く無理をしてウエーデルンをすると息が切れてどうにもならない(それでも今回の山行でまともにウエーデルンができたのはこれが最初で最後のような気がする)。緩斜面になるとターンはさらに苦しく、早く斜面が終わって分岐に着きたいとおもう程だ。

 <御山谷から中の谷〜刈安峠>  御山谷1850m地点から左に沢が大きく屈曲した地点にからいよいよオリジナルのルートへ入る。右側から入っている枝沢を距離100メートルほど入り、さらにその左側の小さなカール状の沢を登っていくとわずかで2050メートルの乗越へたどりつく。ここは今回たどるスキールートの入り口にふさわしい気持ちのよい峠で深々とした山々が前方に重なり、振り返ると御山沢の白竜のような姿が立山へ続いている。 ここは地図上では地名はないが、中の谷と御山沢を結ぶ峠なので中御峠と仮称しておく。ここからの下りはかなり大きなカール状で所々に潅木が生えているがまずまずの斜面である。ただし雪の量は去年より2メートルは少なく、潅木は倍以上有るようにみえる。 谷に下ると中の谷はどうしたことかごく最近の雪崩におおわれ、倒木とデブリで広い谷底はいっぱいになっていた。 下った斜面の200メートル程上流の左岸の山腹がなだれた様だ。去年の幕場は決して安全な所では無かった事が判る。ここからの刈安峠への登りは最初が40度近い急斜面、雪が腐っていてちょっと油断すると雪とともにずるずる流される。去年、村木君と1メートルを越える新雪をまっしぐらに滑り降りたことがなつかしい。 前回のトライの最深到達点の刈安峠に着くと既に四時を回っていて、峠の主のような桧の大木の根元を今日のねぐらにする。南の方ははるかに開け、東沢源流の雪山に夕焼けが赤く、明日の好天を期待する。明日こそ今回のコースの核心部の廊下沢乗越を越える日なのだ。   

5月2日(晴れたり曇ったり時々雪)

 <刈安峠からヌクイ沢へ>  きびしい冷え込みで寝付きが悪く、早立ちのつもりが明るくなってようやく小鳥のさえずりで目をさます。予定より1時間以上寝坊し出発は7時半ごろとなった。 峠からはやや狭い夏道沿いの尾根を五色ガ原へ向かって登る。天気・展望もまずまずで、後立山の山々の展望が良い。このルートは尾根筋こそやや狭いが、稜線には木がほとんど無く、下りでも充分使えそうだ。驚いたことに熊の足跡があり、更に驚いたことに何と、途中からスキーのシュプールが付いている。五色ガ原からの往復であろうか。1時間半程の登りで五色ガ原の一角へ飛び出すと、広やかな雪原の向こうに立山連邦がそびえている。   ヌクイ沢から廊下沢乗越の斜面はここから見ると、凹凸も定かでない広大な純白の斜面だ。ヌクイ沢への下りは原に出て、最初の沢型を絡むように下る。前日の新雪、最大で38度程ある斜度と、ほとんど木の無いバーンは雪崩に絶好のコンディションであるがすでに雪は適度に腐り、粘っていてまずは安全である。(雪質がもっと良いときは沢の手前の尾根状の丸い斜面が風当たりが強くて締まっているようだ) プラ登山靴で滑る俵氏は、慎重にゆっくり降りてくる。ほとんど木の無い斜面をやや斜めに降りていく、雪崩の恐れは無い代わり、降りるに従い雪の粘りは増していく。雄大な斜面、景観は申し分無いのだが、谷底にたどりつく頃は尻で滑った方がましだと思う程くたびれた。  降りてみると意外に谷底は広く案外平和な谷である。それでも木がない斜面が多いから何十年かに1回づつの雪崩で森が育たないのだろうか。それでも所々木立や岩陰があるから、場所を選べばまず安全な泊まり場が得られるだろう。

 <廊下沢乗越から廊下沢>   廊下沢乗越への斜面は最初だけ30度程の急斜面だがすぐ25〜28度の広大な一枚バーンを登る。北斜面だから下った斜面よりはるかに雪質が良く登りながらも滑りたくてしょうがない斜面だ。 廊下沢乗越に付くとさすがに顕著なコルだけあってなかなか風が強い。乗越の向こうには黒部の谷をへだてて大きな赤牛岳が泰然とうずくまっている。それよりも何よりも驚くべくはその手前の廊下沢の大崩壊で、地図から想像したよりもはるかに大きく、近くまで迫っているように見える。 廊下沢の斜面はカール状で風でしまっているせいか雪質も今までよりはかなりまともで滑りやすい斜面だ。ただ目の前の大崩壊の迫力に負け余り思い切った滑りができない。多分に気のせいだろうが転がるとそのまま大崩壊に吸い込まれそうな気がするのだ。実際、大崩壊は地図で見るより倍以上に発達している模様で、予定より標高で百メートル程高いところから斜滑降に入る。途中の枝沢を横切るときなど予定しなかった苦労を強いられるが、スキーを外す程でもない。 

 <スゴの頭からスゴ乗越>  思ったほど快適で無いもののそれほどタイムロスもなく、スゴの頭の北のコルへ上がる小カール状の沢の登りへ移る。この斜面も平均28度程度のフラットなバーンで滑りやすそうだ。 折から晴れ間が広がり白いコルと青空のコントラストがまぶしい。 コルに着けばもう一般の縦走路である。私たちが登っている間も1パーティが通過していった。 コルからスゴの頭へは夏道のように西側に巻き気味にすすんだがこれが大失敗だった。斜面は大したことはないのだが、風で斜面がアイスバーンとなっていて、たっぷりと滑落の恐怖を味わって1時間以上もタイムロス。おかげでスゴ小屋までたどり着くことができなくなってしまった。スゴの頭の下りは結構いい斜面なのだが南面の悪雪と疲れでまともにターンができない、俵氏は潔くシートラで下り私はじたばたとねばったが最後の緩斜面まではほとんど差がつかなかった。 今晩の泊まり場を乗越の少し向こうの樹林の中に決め、テントを張る前の気付けの梅酒がうまい。明日の分まで飲んでしまった。この日は夜間かなり吹雪いたようで風の音がなり続けた。幸いテントにはほとんど風があたらなかった。

5月3日(晴れ後曇、時々雪)

 <スゴ乗越から薬師岳越え>  前夜の風雪で今日は停滞かと諦めていたのが、朝になりにわかに天候が快復し、7時ごろには日まで出てきた。あわてて支度をするものの出発は8時を廻ってしまった。 雪稜状の小さなピークを越えていくと程無くスゴ小屋である。小屋は雪に埋もれているが、すでに入り口が掘り出され少なからぬ人々が利用しているようだった。このあたりは前方に丸山を従えたはるか高くに北薬師へと続く稜線が真白に続き、足元彼方には黒部川、さらにそれをへだてて赤牛・水晶の山並が堂々とそびえている。 天気も良く実に豪華な稜線歩きだ。緩い広やかな尾根を1時間も行くと森林限界となり、このあたりからは雪はアイスバーン状となる。俵氏は初日の冷え込みで風邪をひいたのか、ややペースが上がらない。幸い天気も良いが、ここは北アでも最も深い山域、なんとか今日中に太郎小屋までたどり着きたい。 北薬師を過ぎると左は雪屁、右は岩稜でついに初めてスキーを外す。折から強風が力を増し、担いだスキーが風にあおられて腰が苦しい。おまけにあられまで降ってきて逃げ出したい心境になる。薬師のピークにも立ち止まりもせづ、すぐ先の避難小屋の影に逃げ込むと風圧が突然絶え、ぶったおれてしまう。ここからは久しぶりの下りとなる。 最初のアイスバーンの緩斜面は比較的快適で遠く槍も見える。ところが最後の薬師峠の下りが今までに輪を掛ける大悪雪。歩いた方が早く下れるかも知れない。今回の山行はほとんどこんな調子で登りより下りの方がづっと疲れる。 今夜は俵氏の調子が今ひとつなので太郎小屋に潜り込む事とし、ばてばてで最後の登りを登る。もう6時近い。 太郎小屋には薬師往復のパーティなど 30人ほど入っていた。山小屋は手足ものばせて、やはり金を払うだけの事はある。ビールを手にいれ、食堂のこたつで乾杯。良くここまで来たものだ。後1日今までの様な天気が続けば双六まで行けるだろう。

◇5月4日(曇・吹雪・霧)

 <太郎から北の股岳>   前夜もそうだったが今宵もまた強風が吹き荒れている。小屋の中でもそうと判る程だから前夜以上に荒れているに違いない。ところが今日も朝になると風も吹き止み、雲も薄くなってきた。こうゆうところは今回の山行はなかなかついている。我々も慌てて支度をし、北の股岳をめさす。 薬師岳への登りより更に広い高原状の尾根を磁石を頼りに進む。最初落ちついていた天気は、北の股直前になって猛烈に荒れはじめ、立っているのがやっとの状態になる。何とか北の股のピークには着いたもののこれでは黒部五郎は越せない。双六へ向かうには掟破りの手として黒部の谷沿いに行くか、山腹をトラバースすることも出来なくは無い。しかし俵氏の調子も相変わらずなのでここで前進を断念、神岡口へと下山する事にする。

 <寺地山〜水の平・山の村へ下山>  北の股からの下りも晴れていれば壮快なものだが、今日はガスの中をそろそろとおっかなびっくり下る。ようやく視界が晴れ、最後の高差200メートルの少しゆるんだバーンを今山行で初めて快適に下ることができた。 寺地山付近で昼食にする。寒いため木の根元の掘れたところで風を避ける。時折小雪が舞う。一昨年の同時期、下山する際にここで暑くて木陰を探したのとは何とゆう差だろうか。 雪は水の平の手前徒歩20分ばかりのところで尽きた。 水の平へ降りると水芭蕉がすでに顔を出していた。青空に心地よい風かおる五月の山がそこにあった ・・・


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