93年 5 月 2 日 〜 5 月 5 日 【北アルプス:白馬以北】

柳叉谷横断スキー

文、写真、図:古元一弘   

  

 メンバー:古元、吉田、高沢、鈴木、大宮


コース : 5/2 栂池スキー場〜天狗原〜蓮華温泉先夏季キャンプ場(泊)
 5/3 (泊)〜兵馬の平〜瀬戸川鉄橋〜瓢箪池〜燕のカール〜赤男谷乗越〜赤男谷ベース(泊)(1750地点)
 5/4 (泊)〜柳叉谷出合〜ナル谷乗越〜大ナル谷〜猫叉山 (往復)
 5/5 赤男谷ベース〜雪倉岳〜小蓮華岳〜岳栂平〜金山沢出合〜猿倉〜松川二股・・八方温泉 地図:1/2.5万図 白馬岳・白馬町・越後平岩・黒薙温泉

 

 柳叉支流の広やかな赤男谷を滑り込んで行くと前方に柳叉川の沢音が聞こえてくる。やはり雪は割れているようだ。果たして渡れるところは有るだろうか。 柳叉上の廊下のナタで割ったような真っ黒なゴルジュへ近づいていくとあったあった、ゴルジュ入り口に幅10米程の立派なブリッチがあつらえたようにかっている。柳叉谷横断成功を決定付ける瞬間であった。 

 柳叉谷は同じ黒薙川の姉妹谷、北叉谷とともにその険しさと美しさで日本有数の渓谷としての賛辞を集めている。一方これらの険谷をとりまく山々はきびしさの一面、不思議とたおやかな所も多く、意外にスキー登山向きである。かつて白高地から栂海への山行の際、垣間みた柳叉中上流域の景観は充分滑降意欲をかき立てるだけのものがあった。今回の目的ははこの柳叉川の源流を上部からどこまで下まで行けるか、また中流部の左右両側の有力な枝沢を使い、横断する事を試みようとのものである。

◇5月2日 雪のち雨

<栂池から蓮華温泉へ>

 折から強力な低気圧の接近で、アプローチを予定の大雪渓から蓮華温泉経由に切り換える。この時期、天候に恵まれなければ大雪渓を登るのは危険を伴う。初っぱなからのつまづきで、柳叉源流からの柳叉谷へのアタックは難しくなったが3泊4日の日程では少しでも山に踏み込めるルートを選択せざるおえない。

 前夜祭を駅の駐車場で快適に催し、朝を迎えると既に雨が降り出している。栂池駐車場の更衣室で着替えと朝食をすませる。幸い上に着くと雨は雪に変わっている。降りしきる雪の中を天狗原へ向かう。いつも後立山の大パノラマが素晴らしい登りも今日はガスの中である。

 正午前、天狗原着、気温が上がり吹きしきるみぞれ混じりの雪の中、大急ぎで滑降体制に移る。指先が凍てつく。滑降に入ると風がますます強くなり、雪が雨に変わる。 今回は中の谷左岸の尾根に回り込み蓮華温泉に向かう。少し登りがあるが、最後まで谷沿いを降りるよりは楽しいか?。しかし尾根の西側は樹林帯だが強風のためか雪が少なくブッシュが多い。

 蓮華温泉でビールを仕入れ温泉の誘惑を振り切って先を急ぐ。我々はこの山域にはいるときいつも蓮華温泉をベースとしないでもう1歩山に踏み込むことにしている。ところが蓮華温泉(夏季)キャンプ場迄行って一旦休憩すると水も出ていて、雨も避けられる。「明日も天気が悪いならビールと温泉の近くにいたい」の声、もう少し前進したいところだが、遅い昼食をとりつつ休んでいるうち、動くのがだるくなってそのまま日寄ってしまった。

◇5月3日 小雨、ガス、晴れ間も

<蓮華温泉〜白高知>

 小雨が混じる中、少しでも前進をと志し出発、少しでも柳叉に近づいておきたい。昨日の天気図、予想によれば今日は余り期待できないが、最後の2日はなかなかよさそうな気配だ。悪天候でも何とか核心部に近づいておいて後半2日に目一杯楽しもうとの作戦とする。たまに薄日が差したりして快適とは言えないが行動には全く差し支えがない。そのうちもっと回復するだろう・・・

 兵馬の平からの急斜面を下り、瀬戸川の鉄橋を渡るときはさすがに緊張、ごうごうと増水し柳又もかくあらんかと想像させる。この辺では4年前より1米以上雪が多い。30分ほど登ると我が会の木下パーティが出発の準備をしていた。 彼らは朝日岳・雪倉岳北面のピストンを予定している 1534米地点で最初の交信成功、空荷の彼らはトラブルもあった我らをあっとゆう間に抜き去る。白高知の伸びやかな景色も今日は天気のせいかぱっとしない。雪倉北面の大斜面を登る頃、再び雨とガスに包まれ、後はただ白い世界を黙々と登るのみ。

<燕平カール〜赤男谷>

 ガスの中、見つけにくかった2060米の燕の乗越からいよいよ柳又の支流、赤男谷へ滑り込む。視界もなく微妙な変化のある地形を苦労しながらの滑降だ。さすがに稜線西側の直下はややブッシュが多い。約300米下降し、やや傾斜があるが木に囲まれた所に一大造成工事をして今夜の宿とする。水も出ていてなかなかの所だ。悪天候の2日間でよくここまで来たものだ。

◆5月4日  快晴

<柳又谷横断>

 待ちに待った天候の快復だ。木々の霧氷と空、そして山々のスカイラインが美しい。今日は柳叉谷を渡り対岸の猫叉山までのピストンと決める。まず赤男谷を柳叉出合までの滑降。緩〜中斜面、木立と雪原のバランスが美しい楽園が出合まで続く。このあたりから朝日岳にかけての景色は高原風で実に美しいスノーパラダイスだ。夏は雪原は傾斜湿原に成るのだろうか?。【写真:朝日岳とパラダイス】

 朝のアイスバーンをカリカリと快適に滑っていくと、行手の真っ白な清水岳〜猫股山の景色の下に柳叉谷の上の廊下が深いV字が真黒に、なたで割ったように裂けている光景がぐんぐん近ずいてくる。 出合に近づくと沢音が広がってくる。果たして向こう側に渡れるだろうか。【写真:柳叉谷への滑降】

 ゴルジュの方にトラバースしてスノーブリッジを探すと、見事なブリッチが、上の廊下の入り口に渡って下さいと言うようにかかっていた。スキーアイゼンを忘れた某氏のため、念のため雪がゆるむのを待ち向こう側へ滑り込む。柳叉川もこの下あたりでは流れも穏やかで水量も大した事は無い。もしも雪橋が無くても靴を濡らす事さえ覚悟すれば渡渉も充分可能だ。ただしここから上は谷は極度に圧縮され幅1〜2米の真っ黒なゴルジュが続いているようだ。 

<ナル谷、大ナル谷〜猫又山>

 小さいがかなり強固なブリッジの上で記念撮影等を済ませ、最大の関門を越えた我々はナル谷、ナル谷乗越、大ナル谷と延々と続く無木立のカール状の斜面を登っていく。ナル谷乗越からすぐ下は柳又谷の廊下の中だが沢音は聞こえてこない。おそらく大ナル谷出合付近は雪で埋まっているのだろう。

 次第に高くなる太陽の下、カール状の斜面からの照り返しが加わり、いぶされるように暑い。皆ほとんどシャツ1枚姿になって登っていく。

 最後の急斜面を登りきって猫叉山着。ここからの展望は素晴らしく、剣立山、南はなつかしい初雪山、北は野口五郎のカール、東沢源頭から槍、北鎌尾根まで見渡せる。ちょうど雪倉頂上にいる木下パーティとの交信入りこれがまた楽しい。

<大ナル谷、ナル谷大滑降>

 猫又山からの大滑降は乱舞、乱舞。最大でも35度、平均20度位と適度な斜面が柳叉出合まで延々と続く。規模としては飯豊の石転び沢雪渓によく似ているが、大ナル谷で一旦狭くなる斜面もナル谷乗越からナル谷へ滑り込むとからまた広くなる点がより優れている。5人でシュプールの描き放題。さえぎる物もない大滑降が通算高差千米、柳叉渡しまで続く。あっとゆう間に柳叉川についてしまう。

<柳又再横断、行者にんにくだ!!>

 後はおまけの460米の登りをテントに帰るだけである。途中帰りは山菜を探しながらのんびりテントに帰る。鈴木氏の眼力により伝説の山菜行者にんにくを手にいれを手に入れる事ができまたラッキーでした。

 テントに帰るとまだ3時過ぎ。本来なら撤収して少しでも登っておいた方が楽なのであるが、水も出るし、1仕事終わったし、まあいいか・・?。荷物を干したり、焚火をしたり、鈴木氏は流水で行者にんにくの下ごしらえ(たいへん寒かったそうです)・・のんびりした山の午後のは楽しいものだ。(ただしこのつけは翌日たっぷり払わされる)

 苦労して鈴木氏が下ごしらえした行者にんにくのおしたしが絶品だった事は言うまでもない。適度にスパイシーでもったりとした舌あたり、しかも独特な甘味がある。伝説の山菜にふさわしいものであった。

◆ 5月5日 晴

<燕平〜雪倉>

 最終日、下山ルートとしては当初大雪渓を下る予定だったが高沢氏によるとが大雪渓はつまらんとのことなので。雪倉北面から蓮華・平岩、金山沢などが候補に上がるが北面はメンバー中3人が経験済、金山沢も大雪渓以上ではなさそうだしと言うことで、雪倉、小蓮華を越え、岳栂平(仮称)経由で長距猿倉に下山することとする。体力が持つかやや心配である。翌朝はまた快晴。夜明けとともに出発。暁の中にコルへと登る【写真:暁に登る】、往路と違い素晴らしい景観の赤男のコル、そして雪倉へ登る。頂上の大展望は言うまでもない。

<雪倉岳〜小蓮華岳>

 雪倉からの滑りは少しスキーを外さなければ行けない所がある。瀬戸側の源流帯も実に素晴らしいスキーエリアで1度滑ってみたいものだ。このあたりから疲れのせいかもたもたし、瀬戸川源流を回り込み小蓮華着は16時になろうとしている。さすがに最終日の合計1200米の登りはこたえて予定より2時間近くもよけいにかかってしまった。

<小蓮華岳〜猿倉:夢の大斜面へ>

 小蓮華岳から金山沢出合までの大滑降はこの山行のフィナーレを飾るにふさわしい大斜面、最初尾根筋を下り、金山沢に入らずこの左岸、、夢の大斜面と名付けた斜面から岳栂平(仮称)経由で下る。樹林帯に入るまで高差千米近い斜面が後立山の大景観の中に続く。樹林に入っても最後近くまでは薮もなく快適である。最後に少しだけ金山沢に下り、出合までで高差1420米を滑りきる。

 ここから主に林道をさらに猿倉まで滑る。ここには車が入ってフィナーレになるはずだったが、なぜか道路が通行止めとなっていてビールと温泉を求め松川2股まで歩く事になってしまった。2股19時着。小蓮華から3時間未満、やっとスキーの快速性が生かせた。 

 滑降高度合計:4812米   (登高合計4360米)   


▲ Junction Peak homepage  ▼ 山スキー目次へ