▲ Junction Peak 

  94年8月11日〜14日 <北アルプス>

真川鳶谷から黒部川上ノ廊下へ

      文:武富 浩       

◆日程 :前夜発3泊4日(電車)

◆コース:折立〜岩井谷橋〜鳶谷1990m地点(泊)〜稜線〜薬師岳〜薬師峠(泊)〜黒部川薬師沢出合〜立石〜奇岩〜薬師沢小屋(泊)〜太郎平〜折立

◆メンバー:大宮、島田、武富

◆地図(1/2.5万図) /薬師岳                  

 元々は、盆休みに朝日連峰の岩井俣沢に行こうということで集まったメンバーだった。泳ぎに自信のない者ばかりなので、もう一人泳ぎの実力者を求めたのだが、結局見つからず、岩井俣沢は断念することになった。

 こうなると代わりの沢はなかなか決まらない。休みは5日あるのだが、4、5日かかる沢となると大抵は難しい滝登りか泳ぎが入り、今回のメンバーではどちらも心許ない。休みが長すぎて行く先が決まらないのなら、私などはいっそ休みを短かくしようかと思った。でも、大宮さんが頑張って、薬師岳周辺の周遊コースでなんとか話がまとまった。

ところが、出発前日に速達で届いた計画書を見てもう一悶着あった。4泊のうち沢で幕営するのは最初の 1泊のみで、残りはキャンプ場か小屋泊りなのだ。沢登りで焚火ができないなんて!!。上ノ廊下付近は幕営禁止なのでしょうがない、ということらしい。薬師沢小屋から立石まで上ノ廊下を往復するというのも中途半端な気がするが、これは島田さんの希望とのこと。もう代案も出せないし、不満がくすぶったままの出発となった。

◆8/11:晴

<アプローチ>  折立の手前で見た真川は、全く水がなく川底が露出していた。そういえば有峰湖の水位も半分以下だったし、雨不足はこのあたりでも相当なものらしい。やれやれ、これは悲惨な沢登りになりそうだと落胆し、林道とはいっても舗装されて暑苦しい道を1時間ほど歩く。だが、岩井谷に出てみると水はしっかり流れていて、気を取り直した。<岩井谷から鳶谷二股> 岩井谷から右岸の支流鳶谷を経て薬師の稜線に出るこのルートは、鳶谷の二股分岐直後の連曝帯を除けばほとんどゴーロで、物足りない感じだが、常に稜線を仰げる開放感が魅力といえば魅力である。前日あまり寝ていないためか、3人とも無言でさっさと歩く。それでいて、プール状のところを見つけると残さず泳ぐ。 午後早く、二股の手前で泊まることにする。広々とした河原だ。島田さんと大宮さんは、そばのプール状で熱心に泳ぎの練習をして、来年はきっと岩井俣に行こうと張り切っていた。稜線は夕方からガスで見えなくなったが、幕場は見事な星天井だ。最初で最後かもしれないので張り切って焚き火をしたのに、みんな早々と寝てしまった。

◆8月12日:晴のち曇 <鳶谷源頭へ> 大宮リーダーの気合で6時に出発。二股に残雪があり緊張したが、ここだけで、連曝帯も2回ロープを出して沢通しに遡行できた。ふと振り返ると、弥陀ヶ原がよく見えた。連曝帯を抜けると、沢は草原と這松の中の小川になった。早めの昼食をとり、薮こぎなしで稜線の縦走路に出た。今年はあまりの猛暑で高山植物も元気がないようだ。<薬師岳往復〜薬師峠> 荷を置いて薬師山頂を往復する。稜線の西はガスに隠れたが、東側の黒部源流は良い眺めだ。頂上で休んでいる時に、ここから黒部に下って赤牛沢を遡り、それからまた東沢を横切って、それからどこに出るのかしらないが、とにかくそういう沢歩きをしてみたいと思った。これから赤牛沢に行こうという意見が出たりもした。 薬師峠のキャンプ場はさぞかし混雑しているだろうと覚悟して行くと、実際混んではいたが、運良く入口のところに1張分の空地があった。まずまず快適だったが、当然焚火ができないので、さっさと寝るのみ。

◆8月13日 晴のち夕立 <黒部川奥の廊下、立石へ> キャンプ場の裏手から沢通しに下り始めたが、登山道に出会ったところで馬鹿らしくなり、あとは薬師沢小屋まで登山道をさっさと歩く。小屋のあたりは大変な賑わいだ。このあたりの黒部川はプール状のところが多く、プカリプカリと流れ下って行ける。登山道が川を離れるところで大きな土砂崩れが起きており、ここから下流はずっと水が濁っていた。ここに荷物を置いていくことにした。 しばらくは両岸が迫っているのだが、今回はやはり相当に水が少ないらしく、島田さんが以前遡行した時に泳いだ所が今回は歩いて行けた。これは上ノ廊下遡行のチャンスだなと思ったら、案の定5パーティーとすれ違った。 立石のあたりは広々として気持ちの良いところだ。左岸から幅の広い階段状の滝が入るところで昼食を取る。まあ今回は色々文句もあったが、やっぱり来て良かったな、などと思っていた。<立石〜薬師沢小屋> 引き返し始めてまもなく、巨岩のゴーロ帯を各人横並びで勝手に歩いていた時だった。背丈ぐらいの岩から降りようとして、後ろ手で右足を下についたら、これがつるりと滑り、前のめりに倒れて、口と左膝をしたたかに打った。思わず口を拭った手を見ると、血で真っ赤だ。 二人は気づかずに行ってしまいそうなので、急いで笛を吹いて呼び返し、河原で怪我の様子を見てもらった。唇の下が内外両側で切れているが、出血の派手さの割に傷口は小さいらしい。この時は気付かなかったが、上の前歯が欠けていた。消毒してもらい、しばらくして血もおさまったので、そろそろと歩き出す。左膝がけっこう痛くて、杖にすがって歩く。登山道のところで回収した荷物は、全部二人が持ってくれた。 まずいことに夕立が始まり、薬師沢小屋にたどり着いた時はずぶ濡れだった。盆休みの最中で小屋は当然超満員、できれば上流で幕営できるところを探したかったのだが、この傷と雨では、あるという保証もない幕場を探しに行く気にはなれず、しばし相談した揚げ句、結局小屋泊りとなった。中は濡れた人と荷物だらけで蒸れたようだし、傷は痛むし、二人には申し訳ないしで、情けない限りだ。

 山での怪我なんて十年ぶり。あんな何でもないところで転ぶなんて気が散っていたのか。一人で歩いていた間は絶対なかったことだ。今回ごちゃごちゃ文句を言いすぎた報いか、などとくよくよ考えながらも、狭い中で結構眠った。

◆8月14日 晴 <太郎平から折立へ下山> 朝、島田さんがいない。隣の熊みたいなオッサンが寝ぼけて?蹴飛ばすので、廊下で寝たそうだ。他の客が食事に出て行ってから三人でもう一度寝て、一番最後に小屋を出た。 膝がまだ痛いので、計画の赤木沢遡行は止めにして、登山道を下山することになった。荷物は相変わらず二人に持ってもらう。三人とも黙って歩く。太郎平から折立への道は整備されすぎて味気ないくらいだ。やたら天気が良くて、ずいぶんたくさん登ってくる。唇がかなり腫れたので、俯き加減に歩く。下りはさぞかし膝に堪えるだろうと思ったらそうでもなくて、赤木沢行けないこともなかったと思うくらいだが、もちろん後の祭りで、とにかくさっさと下るのみであった。 有峰口で温泉に入り、それからリーダーの厳命により、富山で医者に診てもらうことになった。富山平野からは立山連峰が雄大だが、こんな原因で休みを残して帰る身には虚しく見える。富山市内はフェーン現象のため気温が40度近く、目が回りそうな暑さだった。日曜なので、電話で救急担当病院を訊き、車で捜して行ってみると、けっこう混んでいて1時間ほど待たされた。口の切り傷はほって置けば直る、膝はレントゲンで異常なし、とのことであった。

   


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