▲ Junction Peak 


  94年10 月1日 〜 2日  <朝日連峰>

朝日川・朝日俣     

   文:大宮 不二彦     

◆日程 :前夜発1泊2日(車)

◆コース:朝日鉱泉〜二俣〜上ノ大沢出合〜岩魚止沢出会〜稜線〜大朝日岳

〜大朝日小屋(泊)〜大朝日岳〜大朝日小屋〜小朝日岳〜鳥原〜朝日鉱泉

◆メンバー:大宮、村松、千代川、前迫

◆地図(1/2.5万図):朝日岳・羽前葉山

                  

 朝日俣沢は以前から行ってみたいと思っていたが、雪渓のことが気にかかっていた。自分の技術、経験では不安定な雪渓が残っていた場合、即敗退につながると思ったからである。今年は夏の異常高温があったが、一方雨が少なかったので、はたして残雪量はどうだろう。夏に行った北アルプスは残雪が少なかったが、朝日の八久和川などは逆に多かったということなので、朝日俣も多いのかもしれない。しかし、朝日俣の場合、ガンガラ沢ほど切れ込みが深くないので雪どけが進むのを期待して、とにかく行ってみることにし、9月下旬の連休に照準をあわせた。

 結局、朝日俣に3日はかけすぎかと思い、10月1、2日の2日間で行くことにした。メンバーは直前になって参加を決断してくれた村松さんを含め、千代川さん、前迫恵さんの楽しく信頼できる面々である。以下の記事は多分に記憶に頼って書いたものなので、大雑把で誤りもあるかもしれません。悪しからず御了承下さい。

◆10月1日 晴のち小雨

≪アプローチ≫  前夜8時、阿佐ヶ谷に集合して出発。東北道をひた走る。車のオーナー村松さんは初日の行程を心配して他人にハンドルをわたさず、とばす、とばす。助手席で前迫夫人が凍りついている。おかげで予定より1時間も早く朝日鉱泉に着くことができ、入山祝いの後仮眠。 朝6時15分に歩き出し、すぐに朝日川を渡るが、ウーム、やっぱり水量が多い。今は非常にいい天気なのだが、前日まで雨が降っていたので水量も心配だったのだ。とにかく二俣まで急ぐ。先頭を歩く前迫夫人が速い、速い。皆ついていけず列がのびてしまう。 7時45分二俣着。そこで改めて遡行の可否を検討する。 メンバーの面々は天気もいいし、迷いもないように見えたが、私は内心おだやかではない。行きたいのはやまやまだが、沢は明らかに増水している。この水量ではゴルジュの突破は無理かもしれない。去年、増水した大荒川谷で出合から300m進むのに3時間を要した時のことが頭にうかぶ。まして、ここは朝日俣である。しかし、しばらくは河原歩きが続くし、河原を歩く分には支障なかったので、とりあえずゴルジュの様子をのぞきに行ってみることにする。例え、遡行を中止することになったとしても、昼ぐらいまでに戻ってくれば、そこから登山道を上に上がることも最悪の場合可能だとの判断もあった。

≪二俣 〜岩魚止沢出合≫  8時15分、二俣出発。ものの本によると、上ノ大沢出合までは単調なゴーロ歩きが続きウンザリするようなことが書かれていたが、そんなことはなかった。適当に小滝もあり、ブナ林の中の流れも明るく実に気持ちがよい。水量は多いが河原歩きに支障はなく、快適に遡行して9時50分に上ノ大沢出合に着いてしまった。この分なら何とかなるだろうかと希望が出てくる。しかし、これからが問題である。  上ノ大沢出合から少し歩くとゴルジュに入る。ゴルジュといってもまだ両岸とも切り立っているというわけではないので、暗い感じはしない。滝もあまり大きな滝はなく、小さく巻きながら進んでいける。ただ一ヶ所だけ右岸から高巻いてルンゼを下降した所がヌメっていて少し悪かった。こういう所は今回、村松さんが率先してトップを行ってくれるので非常に助かる。千代川さんもさすがにベテラン、苦もなくサッサと降りていってしまう。苦労しているのはヌメっている所の苦手な前迫夫人と私ばかりである。 ルンゼを何とか下り、沢床に降りても滝を1つ越えると沢は三ツ俣状になり、本流は直角に左曲する。本流に向かって二方向から急な枝沢が流入している所なので、雪渓が残っているのではないかと心配していたが、雪のブロックが1つ残っていただけだった。この辺りは両岸が迫り、暗い雰囲気である。ここまで進んできた感じでは雪渓さえなければ、何とかゴルジュの突破も可能な程度の水量だったので、もう迷わず進むのみである。 やがて上部のゴルジュに入る。上部のゴルジュは部分的にかなり狭まった所や、側壁の切り立った所があり、滝も(あまり大きな滝ではないが)いくつもあるので、通過にはそれなりの時間を要する。しかし、できるだけ水線に近い所を通過するように心がければ特に問題はない。ただ、雪渓が残っていた場合は高巻きも難しく、通過は極めて困難と思われる。今回は心配していた雪渓は全く残っておらず、ホッとする。 沢が三ツ俣となって出合う所が岩魚止沢の出合で、右の滝を巻きぎみに越すと、いよいよこの沢のハイライト、岩魚止めの滝が眼前にその全貌を現す。

≪岩魚止沢出合〜大朝日小屋≫  岩魚止めの滝は、ものの本によると花崗岩の順層の滝で、快適に直登していけるということだったので、一番期待していた所だった。しかし、近くに行って眺めると右からも左からも少なくとも私にはとても登れそうにない。水量が多かったせいもあるかもしれないが、直登はあきらめざるを得なかった。朝、晴れていた空も、このころには雲っており、思ったほど明るく見えなかったのも残念だった。 仕方がないので右岸の草付きから高巻くことにした。草付きを直上してからバンド状に見えた岩をトラバースしようと思ったが、登ってみると悪そうに見えたので、そのままブッシュ帯まで直上することにする。途中、村松さんが「ザイルを出した方がいいんじゃないの」と言う。私もなるほどと思い、「灌木まで上ったらザイルをたらします」と答えたが、千代川さんも前迫夫人も特に問題なくついてきていたので、結局ザイルを出さずじまいであった。ここは後から考えてみると、やはりザイルを出すべきであったと思う。また、登り始める前に皆で下で待っているように指示すべきであった。この点はリーダーとして明らかなミスだった。ブッシュ帯まで直上し、そこから落口を確認しつつトラバースする。滝の上に出てホッとして先に進む。 沢はここから小滝が連続して最も楽しい所である。この頃には小雨が降り出していたが気分は上々だった。岩魚止めの滝を巻き始めたのが午後2時5分であり、ものの本にのっていた参考タイム通り登れて、丁度暗くなる頃、稜線に抜けられるか、といった感じだったので、私は内心ビバークする覚悟もあったのだが、前迫夫人「小屋まで行きましょうヨ。行けますヨ。」と言ってサッサと歩いていく。 途中の小滝を越えるところで私は何気なく取りついてしまい行きづまってシャワーを浴びながら口をパクパクさせていたら、上から村松さんがお助けひもで助けてくれた。今回もまた、村松さんには世話になってばかりで本当に申し訳ない。今頃の時期だと午後5時半頃までは歩けるので、行ける所まで行くつもりで歩いていたが、特に悪場もなく順調に進み目途がついてくる。偶然、全くの予定通り午後5時30分に稜線に抜け、仲間たちと握手をかわしホッとする。 大朝日岳山頂に登り、小屋に下ったのが午後5時55分。すでに暗くなっていた。満員の小屋で皆さん眠りについてしまう中、我々だけが夕食を作り、食べて眠ったのが夜8時頃だったろうか。ほとんど酒も飲めず、小屋には遅く着くものではないと痛感した。

◆10月2日 晴

≪下山≫  早朝、朝食前に村松さんと2人外に出て周囲の眺めを楽しむ。私は朝日連峰に来るのは初めてだったので、昨日の沢の良かったこと、充実したこととあわせて、ひときわ幸せな気分である。4人で、また頂上に登りなおして、小屋から下山を始めたのが7時55分。右にガンガラ沢を見ながら小朝日岳に向かう。足の速い村松さんと前迫夫人が先行し、千代川さんと私は後からゆっくりとついていく。 好天の下、鳥原山の湿原も美しく、紅葉もなかなか印象的だった。千代川さんと、きのこや木の話をしながら楽しく下る。 朝日鉱泉に午後2時10分に着く。鉱泉の風呂が一杯だとのことで、帰りは寒河江に向かう国道のそばにある“りんご温泉”に入ったが、眺めもよく、いい温泉だった。肌がつるつるになった。 今回の沢は水量は多目だったものの、雪渓も全くなく、天候も比較的よいという好条件のもとで何とか成功させることができたものです。条件が少しでも悪ければ敗退も大いにありえたでしょう。成功させることができたのは村松さんをはじめとするメンバーの皆さんのおかげです。どうもありがとうございました。素晴らしい仲間に恵まれ、充実した非常に楽しい山行でした。

    


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